ELISAのようなヘテロジニアスイムノアッセイでは、B/F分離が必要になります。
反応に関係しない血清成分や、過剰量の標識抗体を洗い流すためのものです。
しかしこの洗浄液の成分、昔からTBS-Tか、それに近い成分のものを使っていて、全然進化していないのです。

緩衝液が中性付近のものである、これは至って合理的なことです。リン酸(PB)でもTris(TB)でも大差ありません。
血液のpHが中性付近だから、あえて変える必要はないでしょう。

-Tの部分、界面活性剤のTween 20ですね。
抗原抗体反応を妨害しない界面活性剤と昔から言われています。
実際のところ、これ効果あるんでしょうか?
血清成分を洗い流すために洗剤として界面活性剤を入れています、という立前になっていますが、Tweenがなくても結構アッセイできますよ。
家庭向けの洗濯用洗剤なんか、ものすごく開発されているのに、ELISAの洗剤は昔のまま。
もうちょっと開発の余地があるのではないかといつも思います。

それより問題なのは、Sですよ。Saline。生理食塩水。
診断薬なんだから、点滴薬や注射薬みたいに浸透圧合わせる必要なんてないのに。
イオン強度を検体と同じに保った方が、抗原抗体反応に影響が少なくて安全だろうという思い込みだけで添加されているものです。

用手法のELISAキットでは、洗浄液だけは大量に付いてくるでしょう。
あれはプレートウォッシャーに掛けるために、デッドボリューム分を見越して多めにしています。
10倍濃縮液で提供しているのは、塩濃度を上げて浸透圧で菌が繁殖しないようにしているため。
防腐剤を入れるより塩を入れた方が安上がりというのも確かです。

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でもプレートウォッシャーに塩が析出してガビガビになるし、長期間使っていると金属部品が錆びてきます。
装置メーカーさんが対策に苦労していますよ。塩害です。
錆びるからって安易に消耗品扱いにしてしまうと、部品代と交換費用をお客様が負担することになってしまいます。
装置を使うのは手間を省くためですので、いちいち水で洗ってくださいというのは本末転倒です。
さらに洗浄液が飛び散って、隣の装置まで巻き添えで錆びる。もう踏んだり蹴ったりです。

錆


このように色々と問題を抱えている洗浄液ですが、私たち診断薬の技術者からすると、痛恨の極みとしか言いようがないというのが正直なところです。
組成を変えて、もし万一どれかの測定項目で問題が出たらと思うと、今さら変えられない。せめて開発の初期ならできたのに。
でも開発の初期には、とにかくデータを出すのが最優先で、洗浄液の組成なんか頭にない。
開発の機会をすっかり逃してしまっているのです。

一番たくさん使う洗浄液が意外にも検討不足。
どなたか組成検討にチャレンジしてみませんか?
きっと効果がイマイチはっきりしないデータが出て、結局TBS-Tのままで良くない?という事になるでしょう。

誰ですか最初にTBS-T使ったって論文のマテメソに書いた人。
しょっぱい試薬が世界中に広まってしまいましたよ。