よく聞かれるんです。お客様から。
「添付文書には採血後速やかに測定して下さいと書いてありますが、検体を保存する場合にはどうすれば良いでしょうか?」

実はこの質問に対する適切な回答を、私たちは持ち合わせていないのです。



皆さんご存じの通り、血清検体とは本来、全血を静置して血餅と分離した上清のこと。
だから採血後数時間経過しているのは想定していますが、「速やかに」とか「新鮮な」血清というのはどの程度の時間経過や保存温度を想定しているのかと聞かれると、わからない、と言わざるを得ないのです。

本当はどうかと聞かれると、水分さえ飛ばなければ-20℃で数年凍結保存しても測定できると思いますよ。

私たち技術者がどうしているかというと、開発の初期には様々な手段で検体を集めてきます。
共同研究先から保管検体の提供を受けるとか、売血制度がある海外から検体を購入するとかです。
ほとんどが凍結されていたり、採血後数週間経っていたりするものです。
そのような検体で十分測定できる試薬ができてから、臨床検査室に持って行って、実検体で問題なく測定できるかチェックして、発売しているのです。



それなら冷蔵保存とか凍結とかもOKにしてよ、と思われるかもしれませんが、血清検体というのはただの色水ではなく、色んな成分が溶け込んでいる複雑な溶液です。
成分というのはタンパク質、脂質、血糖、ビタミン、ミネラルとか。
中でもタンパク質はアルブミンやグロブリンの他にも、分解酵素、活性化因子、阻害因子などなど沢山入っていて、患者さんそれぞれの生態系?みたいなものを構築しているのです。
私たちの検査試薬は、そういった個人差を数値にしているのです。

そういった多様な検体に対して、一律こんな保存方法が有効ですよ、と言うことができないのです。
保存したせいで生態系?が崩れて異常値を起こす、というリスクが高すぎるから。

本音を言うと、検体の保存だって医療行為に含まれる部分だから、医療器具や診断薬メーカーに聞かないで欲しい。
だって「採血のやり方を教えて下さい」と聞かれたとして、それは注射針や採血管のメーカーに教わることじゃないでしょう。
臨床検査室の運用については、技師長なり各医療機関で責任を持って欲しいところです。

でも、そんなバッサリと切り捨てるような回答してしまうのは、あまりにも不誠実です。
お客様の都合も伺いながら、正直にこんな説明をするのが良いのではないでしょうか。

「あくまで一般的には、冷蔵保存や凍結保存した検体でも問題なく測定できることが多いです。しかし患者さんによっては何らかの劣化を引き起こす可能性が否定できませんので、診断薬メーカーとしては保証いたしかねます。ですので血清分離して、少なくとも当日中には測定を済ませるようにお願いしています。」