抗体精製の技術は昔に比べてずいぶん進歩しました。
抗体に特異的に結合する、Protein Aというタンパクがあって、それを結合した担体を使ったアフィニティークロマトグラフィーを使えば、誰でも簡単に抗体精製ができるのです。



一昔前には当たり前だった、抗血清を硫安塩析、透析、DEAEセルロースに通す、という面倒な作業は必要なくなりました。

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とはいえ、そんな都合の良い話、手放しで信じちゃってる方、いませんか?
どんな技術にも、長所と一緒に短所もあるものなのですよ。
Protein Aクロマト担体を扱っているメーカーさんは、不都合なことをわざわざ公にしていないのです。当然ですよね。

まず、そもそも論。抗血清や腹水、培地など、抗体が元々作られる場所は高濃度のタンパク質溶液の中です。
タンパク質は必ず、プラスチックや高分子に吸着し、抗体の溶出時にコンタミとして一緒に出てくるのです。
一度のクロマトで高純度精製ができるような売り文句のカタログを出していますが、原理上限界があるのは仕方のない事です。

では何回も繰り返せば良いのか、というとそんな単純なことでもないのです。
実は担体に結合されているProtein A、剥がれるんです。

前回取り上げたように、固相に抗体を結合させる技術が制御できていないのと同じで、Protein Aだけ特別という事はないのです。
剥がれたProtein Aは、当然抗体に結合した状態で溶出されます。
これを分離除去するのは、かなり大変です。
経験のある技術者なら、このような問題をどう解決するか見当がつくと思います。ここでは内緒ということにしておきます。

Protein Aに限界があるのなら、Protein GやProtein Lではどうかというと、そちらは現在絶賛開発進行中。
使ってみてイマイチ良くない、違いが解らない、という事もあるでしょう。
まだまだ、これからです。

メーカーさんとお話をすると、
「うちのは絶対剥がれません」と言うのは営業の人。
「ずっと改良を続けているのですが、どうしても限界はあります」と言うのは技術の人。
分野は違っても、建前と本音を使い分けるのは一緒ですね。
うちも似たようなものだし。内緒だけど。