前回までのおさらい
・診断薬は薄利多売の商品。
・流通コスト、品質管理コスト、在庫管理コストなどががっつり掛かってくる。
・3.財源は国民医療費 (伏線)

それでは、私たち技術者が設計できる、診断薬本体のコストはどれくらいなんでしょうか。
身近な例えとして、ペットボトル飲料のコストを考えてみましょう。

安売りしているスーパーマーケットでは、500mLのお茶が78円、2Lのお茶が138円ぐらいでしょうか。
もちろん飲みきれるのなら、2
Lの方がお得ですよね。消費者の視点では。

でもどうして、500m
Lのお茶の値段は2Lのお茶の値段の4分の1にならないのでしょうか。
500m
Lのペットボトル容器が高いから?

一方、お茶の隣の棚を見ると、炭酸飲料も、スポーツドリンクも、果物ジュースも、だいたいお茶と同じ値段です。
ただの水でさえ、500m
Lの天然水が78円、2Lの天然水が138円で売られています。

もうおわかりでしょうか。お茶に限らず飲み物の値段って、実は水とほとんど変わらないのです。
何百キロリットルというタンクで作って、本体である飲み物の製造コストを極限まで抑えているのです。
私たちがお金を払って買っているのは、実はほとんどペットボトル容器と流通コストなのです。
(どうやって開発しているのか興味津々ですけれど。)

容器と流通だけでコストのほとんどを占めている、という事情が診断薬だと変わってくる…ことはないですよね。
はい、そうです。液ものである診断薬より、瓶や箱の方が高いこともよくあります。
診断薬の開発というのは、高性能の試薬を、タダ同然、とまではいかなくても極力低コストで設計しなくちゃいけないんです。
例えば昔は抗血清を一生懸命精製するのでポリクローナル抗体が高価でした。モノクローナル抗体をアフィニティ精製する技術ができてからはかなり安価になりました。

今のところ、このようなコスト要求を満たす技術というのは、CRPレベルの血中濃度が高い検査項目ならラテックス凝集法一択、腫瘍マーカーやホルモンのような高感度が必要なレベルならELISA一択となっています。
質量分析の医療応用とか期待されていますけど、ELISAほど安く作るのは難しいのではないかと思っています。
私たちプロの診断薬開発者がいまだにELISAを使っているのは、高感度かつ安価に血中の抗原を測定できる技術として、ELISAが最も優れているからです。
ELISAを基準に今の保険点数が決められている、という側面もあります。

毎年新卒社員が来ると、「現在使われているELISAは何十年も前の技術です。技術革新が必要だと思いませんか?私は研究室でこんなすごい技術を研究してきました」とか言ってパワポで即戦力アピールするんですよ。
中身を聞いてみると、加工費に何万円掛けたかわからない超マイクロ電気泳動とかだったりします。
そういうのはお呼びでないんです。

私たちが欲しいのは、性能はそこそこでも良いから、とにかく安く、安定して作れる技術。
ELISAより安く作れる技術があれば、飛びつくと思います。
それで仮に保険点数が下がることになったとしても、お客様と診断薬メーカーの利益は確保できるように設計してみせますし、国民医療費の削減にも繋がるので、Win-Win-Winですよ。