前回までお話ししたPSAは、標準化が上手くいった検査項目の代表例です。標準物質の作り方から、よく考えられています。

しかしイムノアッセイ法はあくまで分析法
長さならメートル原器、重さならキログラム原器を基準として合わせればいい、という計量法と同じやり方では都合の悪い点が出てくるのです。
今回はそんなお話。

まず(我々の経験上良くあることですが、)抗原というのは、検体から
精製して取り出した時点で、天然のものから微妙に変性してしまうのです。
例え変性剤や塩析による物理的なダメージを与えないでも、抗原の周りの環境(溶媒)が違うだけで、血液中の抗原とは【少し違う反応性のもの】になってしまうのです。
それこそカラムに通すだけで、検体中の抗原とは別物になってしまいます。

カラム変性

そして、この微妙に変性した抗原を免疫原として動物に注射
して、抗体を取っているのです。

抗原免疫

こうして幾つかのクローンが出来上がりますが、免疫原が変性した抗原なので、天然の抗原に対する親和性はクローン毎に違ってしまうのです。

反応性の比

このような多様な抗体を使って各メーカーが診断薬を作り、変性抗原に対して値が合うように調整してしまうと、天然抗原に対しては値がズレてしまう事になります。

値のずれ

ざっくりと言えばこんな理由で、精製抗原で作った標準物質に合うようにイムノアッセイ試薬を作っても、実際の検体を測ると測定値がズレてしまう、という現象が発生するのです

我々技術者としては、本当は標準物質なんか使わずに、基準測定法で値付けされた実検体を提供して頂いた方がありがたいのです。
ところが現在の標準化の方向は、標準物質頼りです。
薬事的にも添付文書に標準物質を明記するように求められており、メーカーはお上には逆らえません。

「何をもって標準と定義しているのか?」
結局はそんな話になってしまいます。
精製抗原を添加した疑似検体を標準品と仮定するのは、無理があると思うのです。

最近になってやっと、血清検体を使った標準化が提唱されてきました。
これが上手くいったら他の検査項目も同じようにやりましょうよ。