前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen)の話をします。
PSAが高値だと前立腺がんの可能性があるので、50歳以上の方は検診を受けましょう、と推奨されている検査項目です。
臓器特異性が高く、治療が間に合う早期に高値になるという特長から、腫瘍マーカーの中で唯一(?)使えるのはPSAとまで言われることもあります。

今回はまず、技術的な話をしましょう。
PSAの実体はプロテアーゼなので、血清中には3つの存在様式があります。
1. PSA単体で存在するもの(Free PSA)
2. アンチキモトリプシン(ACT)が結合して不活性化されたもの(ACT-PSA)
3. α2-マクログロブリンに捕まったもの(α2M-PSA)

PSA
このうちα2M-PSAは抗体と結合できないので、イムノアッセイで測定されるPSAの測定値はFree PSAとACT-PSAの両方を合わせたものになります。
Free PSA単独で測定する検査項目もあるので、両方を測るのをTotal PSAと言うこともあります。
検診で使うのは後者です。

PSAも初期の頃は、測定値が各社バラバラでした。原因の一つはFree PSAとACT-PSAの反応性の違い。ACTが結合する部位を認識する抗体を使ってしまうと、ACT-PSAに反応せず、Free PSAにだけ強く反応する測定系ができてしまうのです。

Skewed

そこでTotal PSAの測定には、ACTの影響を受けないエピトープを認識するような、特異性の高い抗体を選んで使うのです。

Equimolar

このようにして(これだけじゃないけど)、各社測定系の改良に取り組み、2005年頃にはPSA測定系の標準化ができるようになったのです。
PSA検査標準化専門委員会と、参加したメーカーの努力の賜物なのです。

こうして技術的には正しい測定値が得られるようになったPSA検査ですが、実はこの後も苦難の道を辿ることになるのです。