甲状腺ホルモン検査で必ず測られる、遊離サイロキシン。
イムノアッセイで測定する代表的な測定項目です。

1. 血液中でサイロキシンの99.97%は結合型
2. 化学平衡で遊離型が
0.03%存在し、ホルモン活性を持つ
3. その0.03%を測定するのが「遊離サイロキシン」である。

このように説明されると、「そんな訳ないだろう」と思えますよね。
1と2は客観的事実だけど、問題は3の説明。抗体を入れた時点で化学平衡は崩れるから、遊離型だけを都合良く測定できる訳ないじゃありませんか。

実は遊離サイロキシンのイムノアッセイでは、0.03%より多くのサイロキシンを測定しています。どれくらいかは知ってるけど内緒です。

それではイムノアッセイ項目の遊離サイロキシンは嘘なのかというと、そうではなくて、説明が良くないだけだと思うのです。

3. 結合型のサイロキシンを解離させるような薬剤を入れずに、そのまま分析するのが
「遊離サイロキシン」という測定項目である。

と言うのが正しいでしょう。
こうして得られた測定値が患者さんの臨床状態を良く反映し、診断に利用されていることは紛れもない事実です。

一方で技術的な観点からいえば、総サイロキシンは単位がμg/dL。イムノアッセイというのはn(ナノ)とかp(ピコ)の濃度を分析する方法なので、総サイロキシンのようなμ(マイクロ)の濃度を分析しようとすると、濃度が高すぎて困るのです。
実際、薬剤を大量に投入するなどストレスを掛けて感度を落としたり、わざと性能の悪い抗体を使ったりしないとうまく測定系が作れない。
その点遊離サイロキシンは単位がng/dL、イムノアッセイにはちょうど良い濃度です。性能(親和性や特異性)に優れた抗体を何のストレスも掛けずに使って分析することができるので、開発者としてはこちらの方がお勧めなのです。

というわけで、いわゆる血液中の遊離サイロキシンとはちょっと違う測定項目ですが、分析手法として合理的に作ってありますし、診断の役にも立ちます。
そういう測定項目なんです。

僕らもなかなか堂々と説明出来なくて、ごまかしていたんです。
でもちゃんとした臨床検査項目です。安心して使ってください。