がんの治療というのは医療における最大のテーマの一つではあるのですが、皆さん腫瘍マーカーの測定値を見て、
「これどういう意味なの?良いの悪いの?」
と思ったこと、ありませんか?

イムノアッセイで測定される腫瘍マーカーは、どれも微妙とかイマイチとか言われています。使えるのはPSAぐらい、と言う人もいるぐらい。
早期検出に使えないとか、臓器特異性が低いとか、色んな見方がありますが、ここでは技術的な側面を紹介させて頂きます。

腫瘍マーカーの多くは、がんに伴って出現する異常糖鎖を検出するものです。
つまりイムノアッセイに利用されるのは、抗糖鎖抗体です。

タンパク質を認識する抗体は技術的に容易で、普通に動物に注射すれば特異性が同じような抗体を取ってくることができます。
ところが糖鎖を認識する抗体は技術的に難しく、同じ糖鎖を動物に注射しても特異性が似た抗体はほとんど取れないのです。
だから、取ってきた抗体の特異性によって、ある患者さんには強く結合するけど、別の患者さんにはほとんど結合しない、ということが頻繁に起こります。
かの有名なCEAでさえ、そのような傾向があります。

実はこの性質を利用して、臨床検査項目に使う抗体の供給を独占することができるのです。
つまり、抗体メーカーが癖の強いモノクローナル抗体を作り、それを使った測定法にがんと何らかの相関性があり、保険収載されてしまえばしめたもの。
他社が真似しようとしても同じ特異性の抗体を作ることはほとんど不可能なので、抗体をそのメーカーから買うしかない。

完全に早い者勝ちの商売です。
だから、腫瘍マーカーって沢山あるんですよ。
そうすると腫瘍マーカー自体を覚えるのも大変で、なおかつ抗体に癖が強いから患者さんごとに値が違い、比較できない。

腫瘍マーカーの測定値がよく分からない、という話を聞くたびに思うのは、数学では常識とされている事実。
「相関関係は因果関係を意味しているとは限らない」
全体的には臨床価値ありと思われている腫瘍マーカーでも、抗糖鎖抗体との相性によって、患者さんごとに違う基準値があるはずです。
もしかしてその患者さん、乖離してるかもしれませんよ。