さてこれまで測定原理の話をしてきましたが、実際の臨床検査用診断薬はただのELISAと違います。
実際の抗原濃度を反映していないことがあるのです。
なぜかというと、一つは計量法ではなく分析法であること。
もう一つはお客様とWin-winの関係になるように開発された「商品」であること。
そんな例をいくつか紹介していきたいと思います。

まず代表格としてはインスリン。
血糖値を下げるホルモンです。たいへん重要な検査です。

最初はバイオアッセイで測っていました
バイオアッセイはインスリンの活性を反映しているはずなので、臨床と合うと考えられます。

これをイムノアッセイで測定できるようにしてBerson&Yalowがノーベル賞を受賞したのは有名な話です。

ところが、バイオアッセイで測定したインスリンと、イムノアッセイで測定したインスリンは、値が全然合わないのです。
じゃあイムノアッセイで測定した値は何なの?ということで、区別するためにimmunoreactive insulinという言葉ができたぐらいです。

ins

抗体とインスリンの大きさを比較した絵を貼り付けておきます。右上の銀色のがインスリン(PDB:4ins)、真ん中のが抗体(PDB:1igt)です。
インスリンは
分子量5.8kDa, アミノ酸21と30残基のヘテロダイマーで、イムノアッセイで測定するタンパク質の中では最も小さい分子です。
サンドイッチイムノアッセイが組める限界じゃないでしょうか。

ここからは開発に関わった技術者の考察ですが…
インスリンはあまりに小さいので、抗体と結合するだけで立体構造が変わってしまい、Nativeなインスリンとは全然違う結合活性を示してしまうため、バイオアッセイと乖離するのではないか?と我々は考えています。

それでも、現在インスリンはイムノアッセイで測定しています。イムノアッセイの方が簡便で迅速・安価です。多少活性と合わないことに目をつぶっても、患者さんの診断の役に立っています。
めでたしめでたし。

でもね、最近インスリン測定の特殊性を全然知らない奴らがたくさんいて、やれビアコアで測ってKdがどうのこうのと言い出すんですよ。学生実験とかで。
インスリンの試薬開発なんてどこのメーカーでも終わってますがな。