診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

2019年04月

保存安定性試験

必ずやらなくてはいけないのが、保存安定性試験です。
診断薬には有効期間(使用期限)を付けなくてはいけないので、その期間(製造後12ヶ月とか、18ヶ月とか)を保証するために、実際に保存した試薬で品質管理項目を満足する事をデータで証明する事になっています。

品質管理項目というのは、感度・正確性・同時再現性になりますので、大体次のような表を書いて申請する事になります。

保存安定性

昔はアレニウスプロットを使って加速試験をしていましたが、これは化学反応に適用されるもの。
タンパク質である抗体や酵素の評価に適用する妥当性が証明できないので、最近ではあまり実施しなくなりました。

ですので、試験としては試薬をたくさん仕込んでおいて、定期的に測定する、というだけです。
だいたいは12ヶ月ぐらいのデータで申請しておいて、その後データが取れ次第、18ヶ月とか24ヶ月に有効期間を延長する一部変更申請をすることが多いです。

とはいえ実際の開発では、12ヶ月も待つなんて流暢なことはやっていられません。
大抵は試薬の開発と並行、または次の試薬を開発しながら、という事になります。
試薬の組成を改良するたびに新しく保存安定性試験を仕込み直していると、きりがありません。ですので申請上の「反応系に関与する成分」以外の変更では、旧組成のままデータ取りを継続するのが普通かと思います。

その他にも色々、気苦労が絶えない試験でもあります。
・試薬の置き場所がわからなくなる(誰だよ勝手に動かしたやつ)
・装置が壊れる
・測定日にたまたま出張が入って、そのまま忘れる

ちなみに抗体はとても丈夫で、防腐剤さえ入っていれば1年や2年平気で保ちます。
試薬の安定性が悪い場合、それは酵素や基質の劣化、コンタミ(精製不十分)が原因の事が多いです。

干渉物質の影響度試験

学会や論文などで、試薬の評価として良く実施されている
「干渉物質の影響度試験」
この試験では何を調べているのでしょうか?

文字通り、干渉物質を入れてデータが変化しないか見てるんでしょ?
と思われるかもしれませんが、ちょっと原点に帰って考えてみましょう。

溶血は赤、ビリルビンは黄色。色がついていますね。
乳びは白。光の散乱のために白く見えているのですね。

干渉物質の影響度試験、元々は生化学自動分析機用の試験だったのです。
検体と試薬を混ぜて、酵素反応で発色させて吸光度を調べる。
その時に色のついたサンプルでは、吸光度測定に支障がある訳です。
またラテックス凝集法で濁度を調べる場合には、乳びが散乱光測定の邪魔をしてしまう訳です。
これらの物質が測定値にどれだけ影響するかを調べるために、干渉物質の影響度試験ができたのです。

ではイムノアッセイ法ではどうでしょうか。
そもそもB/F分離で洗浄しているので、原理的に検体の色は関係ないはず。
仮に色がついていたとしても、現在主流の化学発光法なら色は関係ないはず。

なのに、この試験は現在でも行われているのですよ。
ちょっとおかしいのではないかと思っています。
正直、イムノアッセイ法では、干渉物質の影響度試験を実施しても、あまり意味がないと私は考えています。

経験談になりますが、私が開発した試薬の評価をする時に、とある高名な先生が干渉チェックAプラスを買ってきて、こう仰いました。
「これがあるとねー、スライドが1枚作れるんだよー。」
大変申し訳ありませんが、あなたの事は尊敬していません。

とある学会でこんな事がありました。
「インスリン測定試薬において、干渉チェックを用いて試験したところ、影響は認められませんでした。」
という発表に対して、
「赤血球膜にはインスリン分解酵素があるので、実際の溶血検体を使わないと正しく評価できないのではないですか?」
と、たしなめられた座長の先生、あなたの仰るとおりだと思います。
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