診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

2019年02月

直線性試験(希釈試験)その2

直線性試験の続きです。
正しく測れていれば、グラフはまっすぐになる筈ですが、

直線性a

曲がっている場合はどんな場合でしょうか?
これには2パターンあります。

直線性b

まずは上向きの弧を描いている場合。良くあるケースです。
・血清干渉を受けている
・検量線が曲がりすぎている
 (検体と標準物質の挙動が合っていない)
・反応時間が足りない
・標識の濃度が足りない
・酵素反応量が追いついていない
等々。たくさんの原因が考えられます。

色んな濃度の検体で試験してみて、
・特定の検体で起こる
 → 検体固有の血清干渉(反応を抑制する物質がある)
・どんな濃度の検体でも起こる
 → 試薬組成の問題(血清干渉を防ぎ切れていない)
・高濃度でだけ起こる
 → 何らかの試薬成分が飽和(Saturation)を起こしている
と考えていきます。

直線性c

次に下向きの弧を描く場合。このケースはそんなに多くないです。
・血清干渉を受けている
・検量線が伸びすぎている
 (検体と標準物質の挙動が合っていない)

抗原抗体反応を促進させる物質が検体に含まれている、などの原因が考えられます。

このように、直線性試験(希釈試験)は簡単にできる試験にもかかわらず、問題の解決に向けた色々な手がかりを与えてくれます。
データがおかしいなと感じたら、真っ先に実施する試験としてお勧めです。

直線性試験(希釈試験)その1

今回は直線性試験のお話です。
これは大変重要な試験なのです。

タンパク質の濃度を測る時に、分光光度計で吸光度を測っているでしょう。
これはLambert-Beerの法則を利用したもので、吸光度がモル濃度に比例するという現象を測定法に応用したものです。
ものを測る技術というのは、比例関係が基礎となっているものです。

臨床検査も同じです。
生化学検査なら酵素反応量を吸光度で測定しますし、
イムノアッセイ法なら抗原量を標識の量(蛍光強度や発光量)で測定します。
ほとんどの検査は、直線性が基になっているのです。

ですので、逆に言えば、抗原量が半分になれば標識の量も半分になるはず。
この原則が正しく機能しているかどうかを調べるのが希釈試験です。
抗原を濃くするのは手技として難しいので、希釈する方で直線性を試験することが多いです。

だいたいこんな感じです。

直線性a

元の試料と希釈液を、0:5, 1:4, 2:3, 3:2, 4:1, 5:0の割合で混合して、希釈試料を作ります。測定レンジが広い場合には、希釈系列を作る事もあります。
これを多重測定して、測定ばらつきの影響をできるだけ少なくします。
グラフにプロットして、ほぼ直線になっているかどうかを確認します。
抗原抗体反応が正しく測定値に反映されていれば、直線的に並ぶはずです。

ここで一つ注意があります。
イムノアッセイ法では検量線を引いて濃度換算している場合がほとんどだと思います。
ですので抗原量と、蛍光強度や発光量が必ずしも比例しているとは限りません。
でも検量線はそのような場合にも正しい濃度が計算できるように作られた物なので、濃度に換算してしまえば、基本的に比例関係になり、直線性が得られるはずです。

私たちは比例関係を調べて、「測れている」「測れていない」を判断しているのです。
直線性試験(希釈試験)は、抗原が正しく測れているかを確認する試験なのです。

それでは「正しく測れていない」のはどんな時なのか?
次回に続きます。
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