診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

2018年11月

再現性試験②日差再現性

次に日差再現性。英語ではBetween-day reproducibility。

困ったことに、これと言って決まったやり方は無いのです。
CLSIを見ても、「3施設以上で…」と書いてあって、完全にメーカー向けです。
臨床検査室で実施できる内容にはなっていません。

試験方法は簡単。毎日同じ試料を2回測定するだけです。
営業日が週5日とすれば、1週間で10測定することになります。
臨床検査室の場合、精度管理試料を午前と午後に測定するのが良いでしょう。

Between-day

日差再現性は同時再現性より、だいたいCVが1~2%高くなるのが普通です。
同時再現性は器具や装置のばらつきが要因でしたけど、日差再現性は他にも考慮すべき点があります。

・環境要因(朝と昼の温度差とか)
・Batch差(装置のスタートアップ直後と稼働中の違い)
・試薬の分離(比重の違う成分を混ぜていないか、撹拌は十分か)
・試薬の汚染(コンタミ対策は十分か)
・試薬の安定性(プロテアーゼ等による切断、基質の劣化)
・試薬の蒸発や結露による濃度変化
・試料の変化(乳び成分とかフィブリン塊による詰まり、等)

試験として実施するのは日数が掛かって面倒ですけど、臨床検査室では精度管理のついでにできてしまう試験です。
自分の所の装置や試薬がどれくらいばらつくのか、それが許容できる範囲内にあるのか、常に気を配っておくことをお勧めします。

再現性試験①同時再現性

感度・特異性ときたら次は再現性です。
まずは同時再現性。英語で言うとWithin-run reproducibility。

測定方法は簡単で、同じ試料を5回とか10回連続で測定します。
測定結果からSDを求めて、CVを計算して、CVが規格内にあれば合格。

CVのだいたいの目安は以下の通り。
3%ぐらいまでなら許せるかな?
5%だとちょっと装置の調子が悪いよね。
10%とか故障でしょう。

Within-run

と、実に簡単な試験なのですが、実は色々おかしな点もあるんですよ。

まず規格設定がガバガバな点。
試薬の添付文書見ると、規格が10%とか20%になっています。
これは用手法ELISA時代の名残です。
マイクロプレートでは手技とか色んな要因でばらつきます。
全自動機ではその心配は少ないけれど、万一超えたら薬事回収になってしまうから、ここの規格を厳しくする必要は無いのです。
規格を厳しくしても、試薬の性能が上がる訳じゃないですよ。

次にそもそも再現性というのが、試薬の性能ではなくて装置の性能であること。
分注のばらつきとか、撹拌の均一性とか、温度のムラとか、ノイズなんかですね。
何で試薬の性能試験という事になっているんだか。
もし再現性の悪い試薬を作れって言われても、技術的に無理ですよ。

こんな矛盾だらけの試験ですが、実験の基本は再現性。
開発者は必ずやる(お客様は絶対やらない)試験です。



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