診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

2018年10月

特異性試験③偽陽性出現率

特異性試験として、偽陽性の出現頻度を何%未満と規定して、健常人検体を測りまくった結果がはみ出さないかを調べることがあります。
感染症(HCV抗体とか)でよくやります。

数学的に考えれば、
①蛍光強度のばらつきは正規分布に近いはずなので、
②数値に変換する際にマイナスの値が切り上げになり、
③表示桁数の丸め誤差が出て、
結果として0付近に高い棒、隣に低めの棒、みたいになるのが自然です。

陰性分布

で、その自然な分布からちょっと外れたところに出る検体が問題なのです。
普通の解釈では、「これ非特異だよ」となるのですが、ちょっと理屈っぽい人にこういうデータを見せると、「この検体は本当に健常人と言えるのだろうか?除外対象ではないのか?」とか言い出すのです。

「そもそも健康の定義なんてないよ!」
残念ですが非特異です。理屈をこねる前に試薬を改良しましょうね。

なぜこんな試験をするのか?というと、お客様の潜在的な要望として「陰性と陽性の切れが良いこと」というのがあるからです。
カットオフ近辺で、陰性か陽性かよく分からない検体の計り直しを少なくしたい、という事でしょう。

我々技術者は、このような非特異による偽陽性の対策をいくつも知っています。
ただこれは論文にもなっていなくて、完全に各メーカーのノウハウ。
実はこういう所に、各メーカーがどれだけ研究しているか、技術を持っているかの差が出てくるものなのです。

特異性試験②交差反応性

イムノアッセイの特異性として大事なのが、交差反応性。
構造類似の物質に対してどれくらい反応するかを知るためのものです。
主に低分子量の抗原(ハプテンなど)に対して調べるものだけど、タンパク質でも構造類似のもの(例えば下垂体ホルモンはαサブユニットが全部共通)に対する反応性を調べたりします。

低分子量の場合は競合法を使って、次のように実験します。
①測定項目の抗原の希釈系列を作ります。
②類似物質の希釈系列を作ります。
③ ①と②を試薬で測定し、検量線を作成します。
すると以下のようなグラフが描けます。

交差反応性

だいたいの項目の場合は、抗原の希釈系列が一番左、つまり少ない濃度で競合が掛かる事になります。
類似物質の検量線は右側(高濃度側)にシフトしたものになります。

それで、それぞれのED50を読み取り、抗原のED50に対して類似物質のED50が何倍になるか計算して交差反応性何%というのを出すのです。

交差反応性試験は、抗体の性質を調べる試験です。
このため最初に抗体をスクリーニングする段階でやっておくべきものです。
開発の終盤になって、交差反応性が問題だー、と騒いでも後の祭り。別の抗体に替えるしかありません。

でもちょっと注意が必要なのは、必ずしも交差反応性が低いほど高性能、とは限らない点です。
たとえば臨床的意義が同じもの(例:ビタミンD2とD3)の場合は、同じぐらい反応した方が臨床と合っていたりします。

だから交差反応性は、添付文書や学術資料にきちんと記載して、臨床検査技師さんに「この試薬はこれぐらいの交差反応性があります」と正しく理解してもらうのが一番良いのです。

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