診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

2018年07月

感度試験③LoB(ブランク限界)

次にLoB。Limit of Blankの略。

日本語では「ブランク限界」とか「ブランク上限」と言われます。
要するに、LoBを下回る測定値は、ブランクと見分けが付かない(有意差がない)と見なされる訳です。

さて、ここから実験方法が一気に面倒くさくなります。
まず、ブランクの試料を5~6検体用意します。
感染症なら陰性試料を6例、PSAなら(PSAがないはずの)女性の検体を6例、と簡単ですけど、そのほかの測定項目(腫瘍マーカーとかホルモンなど)では一般的に大変です。
健常人でも多少は抗原を含んでいることが多いので、アフィニティクロマトで除去するとか色々しないといけません。
「ブランク試料の定義って何?」と頭を抱えること必至。
もう、準備だけで一苦労。

その上、そういったブランク試料を5日間以上にわたって、合計60回以上測定しなくてはいけません。
例えば6例を一日2回ずつ、計5日間測定した場合、以下のようにまとめます。

LoB

ここでは測定値は濃度換算する前の、吸光度とか蛍光強度で統計処理しました。
こうして計算した平均+1.645SDを検量線で濃度換算すれば、LoBが計算できるのです。
2SD法に似ていますね。実際面倒くさいだけで意味は同じです。

ここでよくある話ですが、
「全自動機では測定値は濃度換算して出てくるんだから、マイナスの測定値は0に切り上げになるでしょ?そうしたら濃度換算した後の0が多いデータで計算した方がLoB低くなるじゃない。その方が得だよ。」
というズルをしようとする人がいます。

だめだよ。そんなの。
0で切り上げたデータは、正規分布していると見なすことができないでしょ?
SDを使って統計学的に算出する方法は、あくまで標本集団が正規分布していることが前提なんだから。
意味をよく考えないと、ただの算数になっちゃう。

このように、たかがブランクの試験をするだけでこの苦労。
普段使いには、とてもやらない試験です。
「論文書くぞ」「学会発表するぞ」「添付文書書くぞ」という機会でもないとやらないのが現実です。
さらに「CLSI EP17に準じて評価しました」とか言って、具体的な試験方法までは開示しないことが多いです。

とはいえ、「CLSI読め」とはお勧めできないのが正直な所。
まずは英語だけどよく纏まった論文を読んで、次に日本語で詳細に解説した論文で勉強してみることをお勧めします。

感度試験②2SD法

次にいわゆる「2SD法」。
もうちょっと適切なネーミング方法なかったんでしょうか?

ブランクの平均+2SDに相当する濃度を検量線から読み取り、その濃度を検出下限とする方法です。
ブランク限界(Limit of Blank; LoB)と意味がよく似ています。
もちろん競合法では平均-2SDです。

試験方法は簡単。
1. キャリブレーターを測定して検量線を描く。
2. ブランクを多重測定する(10回ぐらい)
3. ブランクの平均+2SDを算出し、検量線から濃度に換算する。

2SD法

古典的な方法ですけど、いまだに現役で使っています。
例えば、希釈法が使えない場合。遊離チロキシンとかはこの方法ですね。

他にも、診断薬の開発初期で、やっと検量線が引けたような段階で、感度の目安を付けるために実施しています。
簡単な実験で、マイクロプレート3列使えば十分できます。

試験の厳しさアピールのために3SDにしている人もいます。
でもね、あくまで簡易測定法なんですよ。
ブランクの再現性が偶然でも良く取れれば、感度が高く見えてしまうんですよ。

論文書くにはちょっとねー。
2SD法で超高感度とか言われてもねー。
プロフィール

技術者TH

Twitter プロフィール
バイオ系実験あるある等を気まぐれにつぶやいています。
楽天市場