診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

2018年06月

感度試験①希釈法

感度試験、という名目で検出下限を求める試験方法は、実にたくさんあります。
たぶん、色々と乱立しすぎて、「これじゃあいけない」と思って標準法を規定された、というのが実態だと思います。

まずは昔ながらの希釈法。
検出下限付近(例えば測定範囲目標の下限)より少し濃度が高い試料を希釈して、目標付近の濃度の試料を何点か作ります。
希釈液のみの試料もブランクとして用意しておきます。

これを各5回とか10回、多重測定して、値の平均値と、ばらつきを標準偏差として求めます。
Excelとかで以下のようにまとめます。

感度試験(希釈法)

ここで、ブランクの平均±2SDを求め、試料の中で2SDのエラーバーが重ならない最小の試料濃度を検出下限と見なす、という方法です。
この例では試料1は重なるので有意差なし、試料2は重ならないので有意差あり、と見なして試料2の濃度を検出下限としています。

ホントのことを言うと、この方法には問題がいくつかあるんですよ。
例えばブランクでたまたまバラツキが小さいデータが取れちゃって、偶然検出下限が小さくなったり、
また例えば、濃度が高い方の試料がばらついて、濃度が低い試料で有意差があるのに、濃度が高い試料で有意差なし、という結果が出てしまったり。

平たく言っちゃえば、母集団から標本を抽出する方法が不適切だと言うことなんですけどね。試験としてばらつきとか再現性を扱うのは難しいのです。
他にも、2SDか2.6SDか3SDか決まってなかったり。
たまに間違えて標準誤差を使っちゃう人もいます。

とはいえ、この希釈法は今でもよく使われています。
開発中の試薬なんかで検出下限の当たりを付ける試験をする場合なんかに、目標濃度に合わせた試料とブランクの試料の2つを用意して多重測定し、有意差があるかどうかだけ調べることができるのです。
せいぜい20回ぐらいの測定で済むので、簡単です。
今後も便利に使われていくことでしょう。

感度とは何ぞや?

まずは感度。
これは業界によって色々な定義があります。ああ、ややこしい。

とりあえず、カメラの感度は置いといて。

計測の世界では、感度は分析精度、つまり「目盛りの細かさ」とされています。
小数第何位まで読み取れるか、という事です。

0101_003

一方、医学の世界では「陽性と判定されるべきものを正しく陽性と判定する確率」とされています。
「感度と特異度」の感度ですね。
sensitivity_specificity01

ところが、分析の世界では、「どれだけ少量の測定対象物を検出できるか」という性能のことを言っていたりします。
曖昧さ回避のため、「検出限界」という用語を使う事も多いです。

LoD

それで、診断薬の世界ではどうなのか。
医学の用途で分析科学を使って計測してますけど。

実は「高感度」といってPRしているのは、営業さんなんですよ。
その方が売りやすいんでしょうね。
車のエンジンの「馬力」とか「燃費」と一緒で、別にサーキット走行をする訳でもないのに、それらの数値が高いことで高性能をPRして売るでしょう?
それと同じことです。

私たち技術者は「検出下限」「検出限界」と言うことが多いです。
最近ではCLSI EP17の定義にしたがって、「LoB」「LoD」「LoQ」と言うことが一般的になりつつあります。

みんなCLSI読んで勉強しましょうね、なんて言う気は毛頭ありません。
あれ、文章が下手なんです。だらだら長くて要点が解りづらい。

これですっきり、かと思いきや、
「LoD」の算出方法とか知らずに、単に検出限界の略語だと思って「LoD」と言ってる人、結構います。
もう、どうしたものやら。
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