診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

2018年03月

セントリコン-30の思い出

抗体とか酵素を使った実験では、濃縮や脱塩は基本操作です。
そんな実験器具が、ある日突然なくなってしまったら…
そんな経験ありませんか?

昔は濃縮といえば、アミコンの「セントリコン」でした。

centricon(1)

これを繋げて上部に抗体溶液を入れ、5000×gぐらいで遠心すると、下に貼り付いているカットオフ30kDaのメンブレンで抗体は保持され、バッファーだけが下のリザーバーに落ちて、抗体が濃縮される、というものでした。
回収もよく考えられていて、コーン状のキャップを付けて逆さにして遠心。こうすることで濃縮液がほとんど全部キャップに集まり、とても効率よく回収できました。

回収率70%以上、というスペックは謙遜気味だったと思います。
90%はいけましたね。

ペプシン消化後にゲルろ過する前の濃縮とか、消化後や酵素とコンジュゲート後の濃度調整に使っていました。
吸光度(280nm)が測れなくなるぐらいまで濃縮したものですよ。

s-l225bs-l225

セントリコンの箱。
実験台の薬品棚から微妙にはみ出す。
平べったくて引き出しに入れると邪魔。
置き場に困ったのも思い出です。
10k, 30k, 50kを倉庫に平積みしていました。

これが製造中止になったときは困りましたね。
15mLスピッツに入る遠心型限外濾過器は回収率があまり良くない。
製造スケールの限外濾過器は実験室レベルでは大きすぎる。

最近、Amicon Ultra-2mLという、セントリコン後継の濃縮器が出てきまして、ようやく苦難の日々から解放されました。
でも、セントリコンに比べると回収率がイマイチ良くない印象。
もちろん直接比較はできないんですけどね。

セントリコン・ファンクラブ、あったら入会する。
昔は良かった。そんな思い出でした。

まったく最近のぬるいSDS-PAGEときたら。

さてタンパク質の実験の話を続けている訳ですが、最近のSDS-PAGEって、ずいぶん簡単になったと思いませんか?

IMG_0685

私たちの学生時代、SDS-PAGEといえば職人技で、ゲル作りから全部手作業でやっていたものです。
こういう実験用試薬キットを作る専門のメーカーがあって、色々改良したんだと思います。

そのせいで最近の若い子達は、正しいSDS-PAGEを知らないと思うのですよ。
例えばこうです。

「アクリルアミドとBISとTEMEDとAPSを混ぜて、グリセリンで比重つけて、グラジエンターで混ぜながらガラス板の間に注ぎ込む。アクリルアミドは有毒だから手袋必須。なおかつ手早くしないと固まる。」
→「ゲルって買ってくるものでしょ?」

「SDSサンプルバッファーにはServa Blue Gを入れておいて泳動の目印にする。グリセリンで比重をつけてサンプルが沈むようにしておく。メルカプトエタノールが入っているのですごく臭い。」
→「サンプルバッファーも買ってますよ。そもそもマーカーに最初から色着いてるし。」

「バンドがスメアーになるのを防ぐため、泳動後はすぐにメタノールと酢酸で固定。CBBで染色するときも、脱色するときも基本はメタノール・酢酸。臭いのでドラフトをつけっぱなしにして中で作業。」
→「買ってきた染色液に浸けて、脱色は水だけ。キムワイプ入れておくと速いですよ。」

「論文にするやつは一眼レフで写真を撮る。その後ゲルドライヤーで乾燥して保存。均一に温めないとゲルが割れる。」
→「スマホで写真撮ってゴミ箱にポイです。ゲルドライヤー?何それ美味しいの?」

わかる人だけ分かってくれれば良いです。
昔は苦労していたんですよ。臭くて手間が掛かり、廃液処理も大変。
それでも鮮明な泳動像を残す、SDS-PAGEは職人技でした。

もう昔には戻れない。

ピペット自己流(要注意!)

久しぶりに実験の話を。
仕事がら、色んな方の実験指導をすることも多いのですが、
「ピペットの正しい使い方を教わったことがなかった」
とおっしゃる方が意外と多いです。

IMG_0593resize

ELISAの実験で「再現性が悪いんですよー」とか悩んでいる人がいて、ちょっとやってみて、と言って観察してみると、確かに手慣れた手つきでテキパキとピペットで分注している。
でもピペットを斜めに持っていたり、タンパク質溶液なのにフォワード法を使っていたり、ツッコミ所がいっぱいの自己流。

「おいおいちょっと待って。それどこで教わったの?」
「いえ特に誰からも。学生時代からずっとこうしていました。」
「いや、正しい使い方はこう。垂直にして、粘性溶媒の場合は…」

ここでおさらい。
エッペンドルフ社によるピペッティングのコツ
メスピペットなんかと同じで、エアークッション式ピペットも垂直にして使うこと前提で設計されています。チップ内の液体に重力が均等にかかるように。

液体の特性によっても配慮が必要です。フォワード法、リバース法、リピート法を使い分けます。
知らないの?とバカにされないための正しいピペッティング操作とテクニック

私たちがフォワード法を使うのは、精製水、バッファー溶液、基質液ぐらいです。
ELISAで使う抗体溶液や、界面活性剤が入った洗浄液には、リバース法とかリピート法を使っています。

自己流にも難敵がおりまして、頑なにピペットを斜めに使う奴。
なんでそんな使い方するの?と聞いてみたら、培養の実験室出身らしくて、
  • ピペットを垂直に持つと培地に菌が落ちる。このため必ず斜めにして使う。
  • 培養で増えるので、分注精度は関係ない。
  • メスピペットなども同じで、ピペットとは斜めにして使うものである(えっへん)。
  • ドヤ顔
清々しいほど呆れましたけど、実話です。

あとよくいるのが、チップを付けるときにガンガン叩きつける奴。
きっとどこの実験室にもいるでしょう。心の中で「削岩機」って呼んでます。
「ああ、ピペットが傷む…」
力加減ってものを考えましょうよ。釘を打つのとは違うんです。

ぴったりフィットさせるのに必要十分な力で、軽く「コツン」と突けば良いし、不安なら手でキュッと締めてやれば良いのです。
プロフィール

技術者TH

Twitter プロフィール
バイオ系実験あるある等を気まぐれにつぶやいています。
楽天市場