診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

2017年12月

サーベイ結果に一喜一憂

3.サーベイ試料

サーベイ試料をどうやって作っているかは秘密にされていますが、ヒトから採血された未加工の検体でないことは容易に推測できます。
だって何百何千という施設に低・中・高の同じ試料を配付するのですから、試料は元々数リットル必要なはずです。そのために低・中・高の患者さんを見つけてリットル単位の採血をする訳はないでしょう。それは「アカギ」の世界です。
だから実際には一旦プール血清を作り、それに抗原を添加して意図的に高値試料を作っていると考えられるのです。抗原はリコンビナント技術で作れますから。

もうおわかりですね。精度管理用物質と同じです。
各試薬が使用している抗体の性質によって、測定値が高くなったり、低くなったりするのです。
技術的には当然起こりえることなのです。

でもサーベイの結果は、MRさんの運命の分岐点なんですよ。
例えばこんな結果になったとしましょう。

サーベイ
そうすると、仁義なき診断薬業界ではこうなるのです。

D社MRさん:「これ200枚コピーして!お客さんに配るよ。うちは真ん中だって。」
B社MRさん:「まあまあかな。積極的にアピールできる内容でもないか。静観しよう。」
F社MRさん:「うちの試薬なんかおかしい!対策話法作らなきゃ。開発何とかしてよ!」

何とかしろと言われましても、薬事上のトレーサビリティーは遵守しなきゃいけない立て前になっておりますので、開発としては何ともしがたいのです。

そんな訳で毎回「サーベイやるよ!」という話が来ると、開発者は「また面倒なことにならないといいなー」と憂鬱な気分になるのです。
それこそ疑心暗鬼で、サーベイ試料は某有力メーカーが作っており、自社試薬に有利になるような抗原を選んで作っているとかいう噂まであります。本当か?

現状はこんな状態ですので、サーベイ試料をゴールデンスタンダードみたいに考えるのはやめてくださいね。
ゴールデンスタンダードが作れないのが今の技術の限界なのです。

リコンビナント抗原の功罪

前回は精製抗原と天然抗原のズレの話をしましたが、実際には開発者は精製抗原を測る機会が多くあります。
特に遺伝子組み換え技術を用いて人工的に複製されたタンパク質、我々はリコンビナント抗原と言ったりしますが、食品でもない体外診断用医薬品用途には非常に多く使われております。

もちろんこうして作られた抗原は、フォールディングが同じとは限らないので立体構造が違ったり、糖鎖付加が全然違ったりと、天然抗原とは免疫学的に「似て非なるもの」です。
ですので前回お話ししたような「ズレ」は必ず起こります。
一種の「交差反応」と言えるでしょう。

反応性の比

にもかかわらず、リコンビナント抗原は重宝されています。

だって天然抗原にこだわって、疾患を持たれている患者さまの血液をかき集めて販売する訳にはいかないでしょう。
それよりは安定供給が可能で倫理的にも問題がない、リコンビナント抗原の方が診断薬原料として優れているからです。

以下のような試薬の主原料として使われています。

1. キャリブレーター
検量線を描くためのキャリブレーターにリコンビナント抗原がよく使われます。ただし、
検体が正しい値に測定されるように、表示値を少しずらしたりして調節しています。
ですので必ず、使用する試薬で指定されているキャリブレーターを使用してください。他社のものを流用すると、測定値が思わぬ方向にズレて、診断に影響を及ぼす恐れがあります。

2.コントロール(精度管理用物質)
本来ならプール血清を使って、毎日同じ値を示すことを確認するのが理想です。一昔前にはそうしていました。
簡便のため、キャリブレーターと同様の方法で作った代用品をコントロール物質として販売していることがあります。
コントロールの添付文書には、各社キットで測定したときの基準範囲が掲載されていますが、同じ物質を測るのにメーカー差があるのにお気付きでしょうか?
これは標準化が進んでいないから、という理由だけではなく、精製抗原を添加して作られたコントロールは天然抗原と微妙に異なる反応性を示してしまうためなのです。
つまり各社キットが採用している抗体の交差反応性の違いを反映しているのです。
そのことを踏まえて、日常の精度管理に役立てて頂けますと嬉しく思います。

3.サーベイ試料
これが我々技術者の頭痛の種なんです。胃も痛いです。
(次回に続きます。)
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