こんな質問をよく受ける事があります。
「磁性粒子1個には何モルの抗体が付いているんでしょうか?」

申し訳ないけど、この質問に対して正確に答えることは、できないのです。
こういう質問をするということは、ELISAの反応を抗体の数や抗原の結合速度から何とか理解しようと頑張っているのでしょう。
実際、磁性粒子のカタログには単位面積当たりのカルボキシル基の数が載っていますので、そこに抗体が1:1の割合で結合すると仮定すれば、何らかの数が出てきます。
技術者なら一度は経験する計算問題です。

ところが診断薬に使う磁性粒子には、多少無茶な方法を使ってでも可能な限り沢山の抗体が付くようにしているのです。
1:1という前提が成り立っていない。1:いくつかもわからない。
とにかく沢山つけたいのです。

たくさん

これは何故かというと、もちろん診断薬には高感度も求められるけど、測定レンジの広さも求められることが多い訳で、そのためには磁性粒子に付く抗原のキャパシティを増やしてやりたいのです。
それなら磁性粒子を増やせば良いじゃない、と思われるかもしれませんがそうはいきません。診断薬用の磁性粒子はかなり高い品質が求められますので、それ相応にお値段が高いのです。
だから磁性粒子はできるだけ少なくしてコストを抑えたい。でも量だけ減らすと磁石で引きつけにくくなる。
結局装置の集磁能力との兼ね合いで磁性粒子の量を決めて、必要な測定レンジの広さをカバーできるような大量の抗体を付ける方法が開発されてきたのです。

診断薬の開発というのは、健康保険を財源とする検査の世界で患者さんとお客様と診断薬メーカーがWin-winの関係を築けるようにするのが重要なので、学問的にどうこうという課題は二の次になってしまうのです。

こんな事情もあるので冒頭の質問には、「いっぱい、とにかく、いっぱい」と返しています。
答えになっていなくてごめんね。そんなの僕らにはどうでもいいんだ。