診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

2017年07月

業務用ELISAは速さが命

これまで一般的な実験室で行うELISAの話をしてきました。
今回は業務用のELISA、つまり臨床検査室用のイムノアッセイ専用装置はどう違うのか、を書いておきたいと思います。

とにかく速く正確に測る、というのが大事なんです。
色々な体の不調を抱えた患者さんが治療を求めて病院に押し寄せる、それをいかに速く捌けるか、という現代医療の課題に対しての一つの答えです。

昔は、96穴マイクロプレート用のELISA操作を自動化しただけの装置もありましたけど、今はほとんどチューブをターンテーブルで運んで、固相には磁性粒子を使う方式です。
その方が効率が良いんですよ。マイクロプレートみたいに1枚96テスト分同じ測定項目しか測れないより、色んな項目を並列で測れた方が個人個人の患者さんの検査結果を速く出せます。


反応効率


それにマイクロプレートに抗体を物理吸着する方式だと、液面付近の抗原とウェルの底にある抗体が離れているから、接触する確率(つまり結合速度)が小さい。
それより抗体を粒子に結合させて検体と混ぜてしまった方が接触する確率が高い。磁石を使えばB/F分離も素早くできる。
技術的に効率を追究した結果の選択なんですよ。

他にも、抗原抗体反応や酵素反応を平衡に達する前に切ってしまう。そうすると再現性が悪くなるはずだけど、全自動の専用機による分注精度向上と反応時間精度向上で何とかする。
そんな研究開発の上に成り立っているものなのです。
Confidentialなので詳しくは書けないけど。

この記事を書いている時点では、頑張れば1テスト10分は切れるかな、ぐらいのレベルです。
それ以上は原理から見直さないといけない。
まだまだ研究開発の余地はあります。

ダイリューターって知ってる?

僕らが仕事を始めた時代にはもうなくて、先輩から聞いた話なんだけど、ELISAで希釈系列を作る「ダイリューター」という器具があったらしいです。
96穴マイクロプレートにぴったりはまる円筒形の先に十字に溝が切ってあって、25μLとか、毛細管現象で一定量の検体や希釈液が入るようになっていたそうです。

Diluter

それでいちばん左のウェルに検体(抗原)の入った液を50μL入れておいて、ダイリューターでくるくると。これで検体25μLがダイリューターに吸われます。
Diluter_1

その右のウェルには検体希釈液25μLをそれぞれ入れておいて、ダイリューターを一つ右のウェルに移してくるくると撹拌。よく混ぜれば2倍希釈液ができるのです。
Diluter_2

さらに一つ右のウェルに移してくるくると。こうして2倍希釈系列が次々とできていくのです。
Diluter_3

熟練された検査技師さんはダイリューターを複数本持って、プレート1枚分の希釈系列を手早く作っていたとか。
一昔前の技術なのでネットで検索してもなかなか出てこないんだけど、解説しているブログをやっと見つけたので紹介しておきます。
お祈り?|臨床検査技術学科BLOG

コンタミは?誤差は?キャリーオーバーは?などなど色々突っ込みたい所はあります。今なら8連ピペットでやることでしょう。
でもこういう技術は大事に伝えていってほしいですね。

ELISAは
昔も今も、一に練習二に練習。

ELISAは雑でもいいけどテキパキと

臨床検査用のイムノアッセイ装置を設計するのは大変です。
分注精度のばらつきとか、シーケンスとか。
それに何万回測定してもトラブルが起きないような信頼性も必要です。

もちろん開発時には実験室でマイクロプレートELISAなんかを使って実験している訳です。
道具にもこだわって、ピペットの分注精度、回転撹拌、試薬の分注のタイミングなんかを厳密に制御して。

…なんてことは、実際していないんですよ。意外なほど。

IMG_0814

ELISAあるある。96ウェルのマイクロプレートを使うとミスすることが良くあるんですよ。
ウェルの外に分注しちゃったりとか、シェーカーで撹拌したら溢れちゃったとか、基質分注していて1ウェル飛ばしちゃったから咄嗟に前のウェルにも分注したりとか。
ああ失敗した。今日の実験はダメかもしれない。やり直すの面倒くさいなあ。そんなことを思いながらとりあえずプレートリーダーまで持っていくのです。
誰でも経験があることだと思います。

ところが不思議なことに、そうしたミスをしても意外にもきれいなデータが出てしまうものなのですよ。
この辺がELISAの柔軟性なんでしょうね。だからこそ臨床検査に応用されてきた、という側面もあるのかと思います。

とにかくELISAに慣れた技術者の経験から言えば、ELISAは細かいミスには寛容です。
とにかくテキパキと分注し、ザバッと流しに捨てて、キムタオルにばんばん叩きつけて液を切りましょう。

(周りから「うるさい」と苦情が来ない程度にしておきましょう)

ELISAは誰にでもできる手軽な実験の一つです。どんどん測って研究開発を進めましょう。
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