診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

2017年06月

化学発光の嘘

「個人の感想です。」

現在ではもう当たり前になってしまった化学発光法ですが、90年代にはブームみたいなものがありまして、
化学発光=高感度
化学発光以外=低感度
みたいな風潮がまかり通っておりました。今でも検出原理の話をすると、発光法は高感度、みたいに言う人が多いです。

でも技術的には、化学発光にもピンからキリまであって、キリのやつは蛍光法のピンに敵わなかったりする訳です。化学発光法のピンのやつは確かに高感度だけど、採用するにはお値段がちょっと高いです。
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あと臨床的にも、本当に高感度が求められる項目は限られています。大事なのは正確に速く検査結果を出すことで、どんな検査項目でも高感度が良い、ということはありません。

じゃあなんで、化学発光法がもてはやされているかというと、実は化学発光法先発の臨床検査薬メーカーによるネガティブキャンペーンの成果なのです。
彼らは自社の商品を売り込むために、化学発光=高感度というイメージ戦略を使っていたのです。
一番やり過ぎだと思うのは、HBs抗原の添付文書。赤枠で囲った【重要な基本的注意】に「検出感度の高いEIA法/化学発光法を使うように、検出感度の低いイムノクロマト法や凝集法は留意するように」なんて書かせたり。

我々の業界では、公的文書や医療系学会のガイドラインを利用して自社製品に有利な、他社製品に不利な記載をさせることは、かなり頻繁に行われています。もちろんそれなりのエビデンスを出しての話ですので、営業力や学術力に優れたメーカーさんは大したものです。

だから安易に「化学発光は高感度だから良い」みたいな言い方しているのを聞くと、メーカーに踊らされてるなぁ、と思ってしまうのですよ。

お勧め基質の選び方

さて、まずは普通のELISA系を作ることを考えましょう。
酵素標識抗体を作った、固相抗体を作った、となればあとは酵素を検出する基質ですね。
比色法、蛍光法、化学発光法など色々ありますが、どう選んだらいいの?という悩み所もあるでしょう。

「もちろん化学発光法で超高感度測定系を開発して、企業からオファー殺到でノーベル賞を狙うんだ」と息巻いている人もいるでしょう。
でもね、そんな美味しい話は転がっていないんですよ。
普通の車にハイオクガソリンを入れても、レーシングマシンにはならないでしょう?

最初に選ぶとすれば、僕らのお勧めは「キットになってる安い基質」。
PODならTMBキット、ALPならBluePhosとかAttoPhosみたいな。

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別に化学発光基質にアンチなわけじゃないですよ。僕らもよく使っています。
でも診断薬メーカーさんが言うほど何倍も感度が出ないことが多いです。化学発光法を使った試薬っていうのは高感度測定用にファインチューニングされているものなのです。そうでもない試薬に化学発光法はオーバースペックで、検体中の夾雑物なんかも超高感度で検出してしまうのでS/Nが稼げないのです。

どうしてもSignalを稼ぎたいのなら、比色法や蛍光法で酵素反応時間を長く取ればいいのです。30分、1時間、オーバーナイトとか。
イムノアッセイ法というのは、コストと手間と時間を掛ければいくらでも高感度にできるんですよ。かの有名な石川榮治先生の「超高感度免疫測定法」で使っていたのも蛍光法で、時間を掛けることも必要だって仰ってましたよね。

我々技術者は、いかにコストを抑えつつ、臨床検査として有用なスピードで正確な検査結果を返すかを考える訳です。
短時間で手間を掛けずに高いシグナルを出すためには、化学発光法は実に有用です。高価だけどそれなりの価値はあります。
だからこそ普通のELISAには手軽な基質をお勧めするし、実際使ってもいるのです。
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