診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

勝手にÄKTAファン倶楽部

なかなか重い話が続いたので、ちょっと息抜きです。
みなさん、AKTA使ってますかー?

AKTA

診断薬用にプロセスされた抗体、診断薬用に厳選された酵素・基質・ペプチド。
このブログでも何度か取り上げた通り、診断薬の設計開発は高純度精製が命。コンタミは敵。
必然的にクロマトグラフィーの達人を目指すことになり、人はいつしかAKTAの虜になっていくのです。

AKTAがなかった頃は、ゲルろ過ですら大変でした。
ポンプとカラムとUVレコーダーとフラコレを繋いで、メスシリンダーで流速を測って。しかも低温室で。
それでよく風邪引いちゃって、
「今日休みます。誰かカラム止めといて(泣)」
と電話でお願いしたものです。

うちのラボでは、まだ黒いAKTAが現役で活躍しています。
黒いAKTAは頑丈で、何かあっても電源入れ直せば、しれっと普通に動いたりします。
しかし新型の赤いのに買い換えるほど潤沢な予算はありません。
どうか今日も壊れませんように、とお祈りしながら日々のメンテナンスを入念に行っています。
使わないときには抜かりなく20%エタノールで流路を置換しています。
今すぐは無理だけど今度余裕ができたら、1N NaOHで洗浄してあげようと思っています。



診断薬用ELISAでは普通に使われるAKTAですが、一般の方にはマニアックな機器と思われているようで、予算申請時に説明に苦労する事になります。
設備導入で生産技術の方とは話がついても、工場のお偉いさんが「何それ投資価値あるの?」とか言い出して、一緒に説得しにいく羽目になったり。



今度新しいAKTAが出るようですが、どんなスペックになるのか興味津々です。
HiLoadカラムが繋げてprime位の値段なら、買い換えにチャレンジしてみようと思うのですが。
フラコレだけは今の950が使えるといいなあ。


技術者のための医療経済学のすすめ その6(終)

さて医療経済学のお話をしてきましたが、医療が発展したおかげで平均寿命が延びた訳ですから、その分だけ国民医療費が増えるのは、ある意味自然なことですよね。
だからといってこのままで良いのか、今後どうしていくべきなのか、まだ意見が分かれているのが現状です。

政府は「予防医療」「健康寿命の延伸」による医療費抑制を打ち出していますが、それだって賛否両論あります。


予防医療は医療費が掛かる時期を先送りにしているだけだ、とか。


結局何が良いのか、という答えはまだ出ていません。
ものすごく難しい問題なのです。

でも国民皆保険制度は、お金がなくなったらハイ終わり、というわけにはいきません。
そんなことになったら、お金の切れ目が命の切れ目、ということになってしまいます。
そうならないように、どうにか遣り繰りしていかなくてはいけないのです。


免疫血清検査の市場は2017年度で2117億円。これは国民医療費42兆円の約0.5%に相当します。

国民医療費から比べれば微々たるものだから、関係ないやと考えている人も確かにいます。
つい先日、市販薬があるにも関わらず処方されている薬が5000億円分あるのが問題、という記事が出ていました。確かにそっちの方が先ですよね。金額の大きいものから見直されていくのは当然です。


でも個人的には0.5%なんて数字、医療の動向が変わりでもしたら吹けば飛ぶような金額だと捉えています。
つまり決してこの市場は安全なものではない、と考えています。
だから、このような医療経済学の動向にもきちんとアンテナを張っておいて、医療の仕組み自体がどの方向に進んでいるのか、あるいは医療の仕組みを変えるにはどんな技術が必要なのか、考えていくことが必要だと思います。

少し長くなりましたが、この辺りで「医療経済学のすすめ」は終わりたいと思います。
全然技術の話をしていなくて申し訳ありませんでした。
でも、私たちが「コストは敵」と考えている理由の一端は解って頂ければと思います。

新しい世代の医療って、どんな仕組みが良いのでしょうね?

技術者のための医療経済学のすすめ その5

前回までのおさらい
1. 私たちが今でもELISAを使っているのは、低コストかつ高感度を実現するため。
2. 容器や流通・品質管理コストの方が高くつくので、診断薬そのものは安価に作らなければいけない。
3. 財源は国民医療費

さて、話を本来の医療経済学に戻しましょうか。
やっと「財源は国民医療費」という伏線を回収します。

日本の国民医療費は、年間で42兆円となっています。
厚生労働省から「平成28年度 国民医療費の概況」という資料が出ています。

国内総生産(GDP)が539兆円(平成28年度)なので、ざっくり言えば日本の経済活動全体の7.8%が医療、ということです。
途方のない金額なので私たちには想像もつかないのが本音なのですが、2019年度に国家予算が100兆円を超えた、というのは記憶に新しい話ですので、国民医療費は国家予算と同じレベルで扱う大きさなのです。

国民医療費は増加していく傾向にありますので、このまま増え続けると国家レベルで懐事情が心配になりますね。
医療崩壊とか言ってマスコミが煽る原因の一部は、この医療費の問題です。

日本の医療費は世界から見ても高いのか、というとそうでもなく、2016年に対GDP比が第6位であったという報告もあります。

日本より上なのは、医療費高騰が社会問題になっているアメリカが断トツの1位、社会福祉に力を入れているヨーロッパ諸国がそれに続いています。

国ごとに医療制度が違うので、一概に金額が医療の質を表しているとはいえないのですが、日本には国民皆保険制度があるので、医療に関してお金を掛けられる環境にあるのです。

この先は政治家の領域ですので、このブログで書くことではないと思います。
興味のある方はぜひ調べてみてください。年金危機と同じような問題を抱えています。
国民医療費をただ減らせば良い、という事ではありません。いかに効率良く使っていくかが医療従事者の課題です。
質の高い検査を安く提供していく、という事が私たち技術者の課題です。

でもね、世の中には「日本市場は難しいから新興国市場を狙う」なんて言い出す人もいるんですよ。家電屋さんなんかにこういう話をされるの、正直うんざりです。
その国の医療保険制度はどうなっていて、財源はどれくらいありますか?ぐらいの突っ込みを入れると、決まってこう言うのです。
「今後の課題とさせていただきます。」
それ、『何も考えていませんでした』を誤魔化すビジネス用語ですよね。そんなの覚えるより真面目に勉強しましょうよ。
プロフィール

技術者TH

Twitter プロフィール
バイオ系実験あるある等を気まぐれにつぶやいています。
楽天市場