診断薬開発雑記

臨床検査試薬を開発するバイオ技術のブログ。誰かの役に立つかもしれない事を思い付くままに書いています。

抗体の精製 1.塩析とイオン交換

最近は精製済みの抗体を買ってくる事が多いので、抗血清や腹水から抗体を精製することは少なくなりました。
でも実験の都合でどうしても、という場合もある訳で。

抗体を精製する方法は大きく分けて2つ。
①塩析してからDEAEを通す
②アフィニティ精製
今回は①を説明します。とは言っても具体的なプロトコルはGEのサイト等で詳しく書かれている通りです。

硫安塩析
抗体は血清タンパクの中では塩析で沈殿しやすい性質なので、粗精製に利用されます。
抗血清や腹水をスターラーで撹拌しながら、硫安を振りかけるようにゆっくりゆっくり添加していきます。

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この時の注意点:
部分的に硫安濃度が高くなって、コンタミが沈殿してしまうのを避けるようにします。
  • 硫安を急いで入れると、溶けきらずに底に溜まってしまいます。
    硫安の溶解は吸熱反応なので、冷たくなって溶解度が下がるためです。
  • 硫安は乳鉢ですりつぶしてから使います。
    硫安(硫酸アンモニウム)は元々農業用の肥料で、湿気で塊を作りやすい性質です。土に撒く分には問題ないのですが。
    硫安の代わりに硫酸ナトリウムを使うと、塊がなく乳鉢ですりつぶす手間が省けます。ただし硫安よりちょっとだけ高価です。
大体40~50%ぐらい硫安を入れたら、遠心分離して沈殿を回収します。
この時溶液を2本の遠沈管に均等に分けて遠心するようにしてください。硫安溶液は比重がすごく大きいので、片方を水でバランスを取ると体積が異なってしまい、遠心ローターの中でアンバランスになってしまうので危険です。

透析
沈殿をリン酸緩衝液で懸濁し、透析チューブに入れます。
同じリン酸緩衝液で透析して硫安を除きます。
  • この時のリン酸緩衝液はpH7にしておきます。
  • 透析しているうちに、沈殿は溶解して透明になってきます。
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イオン交換
活性化したDEAE-セルロースカラムを用意しておきます。
透析した溶液をカラムに通し、素通りさせた液を回収します。
  • 抗体のほとんどはpIが7より高く、コンタミのほとんどはpIが7より低いので、コンタミだけがDEAE-セルロースに吸着し、除去されます。
  • 昔から使われていたワットマンのDE52は販売終了になってしまいましたので、別のDEAE-セルロースを用意しましょう。
これで抗体精製は完了です。
診断薬に使うにはこの先まだまだプロセスがありますので、この段階では多少コンタミがあっても大丈夫です。

この昔ながらの精製法は
、意外にも現役で使われています。
以下のような利点があります。
  • 使用する薬品や器具が安価
  • 作業が簡単で信頼性が高い
  • スケールアップがしやすい(大量生産に向いている)
あと、昔から使われている優秀な抗体(特にモノクロ)の場合は、アフィニティ精製に換えると変更管理が大変、という品質管理上の理由もあります。

抗体を目で見てみよう

では抗体について。
血液中に何百万もの物質がある中で、ある1物質だけをどうやって釣り上げるのか聞かれる事があります。
それは、狙った獲物(抗原)にくっつく一投必釣の餌「抗体」があるため。
バイオの世界ではそういうものがあるのです。

では、抗体というのがどんなものか見てみましょう。

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ただの透明な液体にしか見えませんが、抗体は目に見えないほど小さい、タンパク質。
この中に沢山、溶けて漂っているのです。

ミクロの世界ではどんな構造をしているのでしょうか。
便利な事にX線構造解析の結果が無料で見られます。
例としてPDBjの1igtを見てみましょう。

IgG

よくY字型の概念図で書かれます。
赤と黄色のは糖鎖ですね。タンパク質にはよく付きます。

概念図を絵で描いてみます。だいたいこんな形です。

抗体

Y字の上の部分がFab部位で、抗原にくっつく部分
(ちょっと色を変えています)が先端に付いています。
抗体分子の左右2ヶ所に抗原が結合できます。
下の部分はFc部位と呼ばれています。
免疫反応(補体活性)に重要な部位です。

このような「抗体」を、ピペットや薬品を使って加工して、診断薬を作っているのです。
例えて言うなら、釣りの仕掛けを作るようなものです。
とはいえ目で見えないものなので、電気回路やソフトウェアを作るのと同じ感覚です。

「測る」にも色々ありまして…

さて、私はイムノアッセイを専門に開発をして、濃度換算をする方法を説明してきたわけですが…
この方法は、measurementではなく、assayなんですね。

元々は「計量法」ではなく、「分析法」なんです。
血中に何万もある物質から、特定の物質だけを特異的に検出する分析法。

それに定規の役目をするキャリブレーターを測定しておく事で、「測定法」のまねごとをして検体中の濃度を推定するのがassayです。
測定原理図1
臨床検査で測る測定項目というものは、どこかに反応を介在して、その濃度を「推定する」という方法をとっているものです。

この「反応」が結構、癖があるものなんですよ。
イムノアッセイの場合は、「抗原抗体反応」。

だから臨床検査の測定法を正しく理解するために、「抗原抗体反応」の部分の性質を正しく理解しなくちゃいけないんです。

これから暫くはイムノアッセイ系を「作る」ところから解説していきたいと思います。主役は「抗体」です。
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